「殺人鬼」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿010

では、殺人鬼は誰?

「殺人鬼」(横溝正史)
(「殺人鬼」)角川文庫

「殺人鬼」角川文庫
「殺人鬼」角川文庫 (昭和版表紙)

推理作家・八代は、
駅からの帰り道、
美しい女性・加奈子から、
家の近くまで同道を頼まれる。
加奈子を自宅まで
送り届けた八代は、その後、
黒い外套・黒眼鏡の義足の男と
出くわす。
どうやら彼女はこの男に
後をつけられていたらしい…。

ストーカーは
気持ちが悪いに決まっているのですが、
その相手が黒い外套で黒眼鏡をかけ、
義足でコツコツと
夜道に音を立てるとすれば、
それは一層不気味に感じるでしょう。
横溝正史金田一耕助シリーズ
一作である本作品、
横溝作品ではきわめてストレートな
「殺人鬼」という表題を付されています。
本作品の肝はずばり、
「殺人鬼は誰?」ということなのです。

【事件簿File-010「殺人鬼」】
〔事件発生〕
昭和22年4月(東京)
〔依頼人〕
亀井家(作品中には「亀井の一家」としか
記されていない)
〔捜査関係者〕
※名前を付された人物は登場せず
〔事件関係者〕
「私」(八代竜介)
…語り手。探偵小説家。
 それなりに稼いでいるが、
 時代に失望している。
亀井加奈子
…怪しい男に尾行され、
 八代に助けを求める。
 典雅な雰囲気を持った美しい婦人。
 夫と離縁しないまま、出奔した。
亀井淳吉
…加奈子の夫。
 義眼・義足となった復員兵。
 出征前夜に結婚した
 妻・加奈子のことが忘れられない。
賀川達哉
…加奈子と同棲している男。
 ヤミブローカー。
 亀井淳吉とはいとこ同士。
 殺害される。
賀川梅子
…達哉の妻。関西では有名な
 女学校の経営者。
浅野
…賀川家の隣人。医者。
 八代とともに達哉の死体を発見する。
浅野妙子
…浅野の妻。達哉殺害現場から
 立ち去る義足の男を目撃する。

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本作品の味わいどころ①
いかにも怪しい、黒ずくめの義足の男

事件は賀川家が襲撃され、
達哉が殺害されて死亡、
内縁の妻・加奈子も首を絞められ
重傷を負うという、殺人事件なのです。
となると、いかにも怪しいのは
加奈子をつけ回していた
黒ずくめの義足の男です。
黒い外套、黒眼鏡、しかも義足。
怪しい匂いがプンプンします。
実はこの男、
加奈子の夫の亀井淳吉なのです。
この怪しい男の存在が、
本作品の一つめの味わいどころです。

結婚したとはいえ、
出征前の息子にせめて一夜でも
妻を持たせたいという
亀井の家のわがままな事情、
しかも加奈子の両親は
亀井家に頭が上がらず、
無理矢理承知させられたのですから、
不満があって当然です。
終戦前、戦火に焼かれて頼った先の
賀川の家で抜き差しならぬ関係に陥り、
出奔してしまったという事情なのです。
加奈子の気持ちもわかるし、
復員してみたら妻に逃げられていた
淳吉の気持ちもわかります。

このように、淳吉には
達哉を殺害する動機は十分にあります。
でも、殺人鬼ではないのです。
では、殺人鬼は誰?

本作品の味わいどころ②
いかにも怪しい、夫を突然奪われた女

亀井淳吉が「妻に逃げられた夫」なら、
賀川達哉の妻・梅子は、
「夫に逃げられた妻」なのです。
彼女にも夫殺害の動機は
十分にあります。
彼女も十分に怪しいのです。
それを裏付けるように、
彼女は事件発覚後、
服毒自殺を図ります。
でも、彼女も殺人鬼ではないのです。
では、殺人鬼は誰?

彼女の役割は何だったのか?
彼女の自殺の真相は何か?
それが本作品の
第二の味わいどころです。
ぜひ堪能してください。

本作品の味わいどころ③
いかにも怪しい、危険を煽る探偵作家

淳吉も梅子も、
達哉殺しの真犯人であるならば、
単なる痴話喧嘩のなれの果てであり、
面白くも何ともありません。
謎解きの要素も皆無です。
第一、世間にそんな話は
ごまんとあるでしょう。
横溝がそのような
安直な作品を書くわけがありません。
そうなると次に怪しいのは
探偵作家・八代です。

ところがこの八代、
本作品の語り手であり、
彼が体験したことを、
彼の目線で追っているのです。
そしてその彼自身も何者かに襲撃され、
命を失いかけているのです。
では、殺人鬼は誰?

と、ここまで説明してきましたが、
一向に金田一耕助が登場しません。
作品の登場人物が語り手となる
一人称作品では、
得てして金田一は脇役に回ります。
脇役に回っても、
金田一は十分に魅力的です。
同じような横溝作品に、
「夜歩く」「三つ首塔」
「蝙蝠と蛞蝓」などがあります。
語り手によって
客観視して語られた金田一は、
なかなかに
味わい深いものがあるのです。

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昭和22年(1947年)という、
金田一耕助
駆け出しの時期の作品であり、
短篇ながらどんでん返しが待っている
スリリングな作品でもあります。
「西洋のある小説家の説によると、
 五百人に一人のわりあいで、
 まだ発見されていない殺人犯人が
 われわれの間に
 いるということである」
という、
読み手の不安を煽りながら
始まる本作品、では、殺人鬼は誰?
ぜひ読んで確かめてください。

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